これは、1990年発行の本で、松田道弘さんが「東京堂出版」から出した1冊目のカードマジック作品集です(参照 「松田道弘作品集レビュープロジェクト」)。
 ちなみに、この本は既に改訂新版が発行されており、「20年後のアフターソート」や新しい技法の代替案が紹介されているとの事ですが、ここでは原版をレビューしていきます。

 で、久しぶりに読み直してみて、どうだったかと言うと・・・購入してから30年以上経った今でも「やり方」以外のところは興味深く読め、その部分だけでもこの本を買った価値は十分にあったと思います。

 ただ、収録作品の評価は・・・30年以上前の本という事を考慮しても、そんなに良くなかったでしょうか。
 特に、フェイクカードやデュプリケートを利用する作品はイマイチな印象です(この本にはそういう作品が半分近く収録されており、それが特徴のひとつなのですが・・・)。
 その理由は・・・フェイクカードやデュプリケートを利用する事によって生じる様々なデメリットを軽く見ている節があり(この本の「はじめに」を読むと、その辺の事も重々承知しているという感じなのですが・・・)、トータルで考えるとメリットよりもデメリットの方が大きくなってしまっている事が少なくないのです。
 ま、メリットやデメリットの大きさは何を重視するかで変わってくるため、一概にどうとは言えないのですが、少なくとも私から見ると「改良」になっていない作品がいくつもありました。

 では、全ての作品を紹介していきます。

第1部 フォア・エース・トリックの魔力

「クラシック・フォア・エース(その1)」 「シークレット・アディション」を利用する手順のように4枚のAとデックを近づけずに、4枚のAを示した後、Aをそのままテーブルに置けるように工夫した手順。
 アイデアは悪くないが、3枚のカードを1枚としてテーブルに置くところがあり、それをどう判断するかで大きく評価は分かれそうです。個人的には「バレるかもしれない」というプレッシャーを受けながら演じるくらいなら、素直に「シークレット・アディション」を利用し、安心して演じたいでしょうか(と言うか、私は「シークレット・アディション」を利用する「クラシック・フォア・エース」を何十年もレパートリーにしています)。
「クラシック・フォア・エース(その2)」 「(その1)」が持つキズを軽減させた手順。ただ、また別のキズが生じてしまっているので・・・。
「私案トッピング・ジ・エーセス」 デックを4つに分け、4枚のAを各パイルの上に置き、パイルを重ねてひとつにすると・・・トップから4枚のAが出てきます。
 「クラシック・フォア・エース(その1)」と同じ手法を用いていますが、3枚のカードを1枚としてテーブルに置くというキズがなくなっているので、「クラシック・フォア・エース(その1)」よりも良いと思います。
「リバース・クラシック・エース・アセンブリ」 「クラシック・フォア・エース(その1)」と同じ手法を厚川昌男さん考案の手順(Aの上に3枚のXカードを置くのではなく、3枚のXカードにAをくわえていく)に応用した作品。
 「私案トッピング・ジ・エーセス」と同様に3枚のカードを1枚としてテーブルに置くというキズがなくなっているので、演じるなら「クラシック・フォア・エース(その1)」よりも断然こちらでしょう。
 ちなみに、Bill Malone の「HERE I GO AGAIN ! vol.3」に収録されている「Shipwrecked !」で私が言っていた情報源というのは、どうやらこの作品だったようです。
「消える4枚のエース」 「コリンズのフォア・エース」の改案。後半部のAを出現させるところがまどろっこしく、あまり好きになれないプロットですが、前半部の「Aの消失」は4回とも異なる方法を使っていて、参考になりました(あまり好きになれないという事を別としても、後半部はイマイチだと思います)。
「ダブル・フェイス・エースの錬金術」 いわゆる「マクドナルドのフォア・エース」の解説で、導入部(Aをテ-ブルに配置するところ)を2つとDFカードを使ったエースの消失法を5つ紹介しています。
 さらに、1950年代末に森下宗彦さんが工夫して構成した手順の改案が解説されています。現象的には2回「フォア・エース・アセンブリ」を繰り返す手順になっているので(一段目では「コリンズのフォア・エース」の要領でレギュラーのAを消し、二段目では「マクドナルドのフォア・エース」の要領でDFのAを消していくようになっています)、一般人相手に演じるのはどうかと思いますが、参考にはなったでしょうか。
「スローモーション・ジョーカー・アセンブリ」 「スローモーション・フォア・エース」の改案で、DFカードを1枚だけ導入。
 悪いとは言いませんが、レギュラーだけで演じられる実用的な手順がいくらでもありますし、フェイクを導入する事で生じる様々なデメリットを上回るメリットがあるようにも見えません。ちなみに、私が「スローモーション・フォア・エース」系でレパートリーにしているのはレギュラーでできる「O'Henry Four Aces」です。
「プログレッシブ・エーセスの悪霊」 レギュラーだけで演じられる「プログレッシブ・エーセス」の改案。この本を買った当時は「こんなに魅力的なプロットがあるのか!」とワクワクしましたが、レギュラーだけで表現するのが簡単でない上に、客ウケも思ったほどではなさそうなので・・・。
「プログレッシブ・クイーンの悪夢」 フェイクカードとデュプリケートを利用する「プログレッシブ・エーセス」の改案。
 上の「プログレッシブ・エーセスの悪霊」よりはマシだと思いますが、フェイクカードとデュプリケートを導入してまで演じたいかと言うと、どうでしょうか?
 ちなみに、「ハエ」(あるいは「蚊」)のカードを使うディーラーズアイテムがあり、オチもそれなりに面白いので参考までに下にデモ動画を貼っておきます。


「リバース・アセンブリの地下迷宮」
 「スローモーション・フォア・エース」に「リバース」現象を加えた作品(4枚のAがマスターパケットに集まると思いきや、一瞬でAが元の3つのパケットに逆戻りしてしまう)の改案で、DFカードを1枚だけ導入。
 「スローモーション・ジョーカー・アセンブリ」よりはフェイクを導入する意味はありそうですが、それでも演じたくなるほどではないでしょうか。
「オープン・トラベラーズのダブルクライマックス」 「オープン・トラベラーズ」の最後でAが4枚ともブランクになってしまいます(タイトルは「ダブルクライマックス」となっていますが、何がダブルなのかはよく分かりません)。
 「オープン・トラベラーズ」における「Aの移動」の視覚的効果の高さは認めつつも、ネタバレの危険性もはらんでいるという考えから、そもそも原案が好きではなく(参照 「Jazz Aces」)、この改案はもっと演じる気になれませんが、「オープン・トラベラーズ」が好きな人でフェイクの導入に抵抗がなければ、参考になる・・・かな!?


第2部 最新流行のテーマへの挑戦

「エース・オープナーの効果」 「Spectator Cuts To The Aces」の改案(「YouTube」で見つけた動画を下に貼っておきます)。マズマズです。
 ちなみに、それを読んだだけではウマくいくのか疑わしいポールハリスの大胆な方法も簡単に解説されていますが、問題なく通用するので心配は要りません(私はその手順を少しだけ発展させたものを30年以上もレパートリーにしているので間違いありません→コチラ)。


「ポーカー・デモンストレーションの呪縛」 4枚のAをデックに混ぜ、5人分の手札を配ると、演者のところに4枚のAが集まります。別に悪くはないが、これだけではやや物足りないでしょうか。
「私のリセット」 私のマジック人生に大きな影響を与えた作品ですが(参照 「Re-set」)、あらためて読み直してみると、そんなに良くはないでしょうか。
 その理由は・・・まず、8枚のカードのうち4枚の絵札をテーブルに置く作業に説得力がない(カードを裏向きの状態でやっていますが、表向きでできる)。次に、4枚のAが次々にKに変わっていくところが尻つぼみになっている(現象的に同じ事の繰り返しになるので、段々と凄くなるようにしたい)。最後に、テーブルに置いていた絵札の確認作業が大雑把(それで通用する場合もあるでしょうが、ツッコまれる事もありそうです)。
「私のインターレースト・バニッシュ」 表向きの4枚のKの間に裏向きに3枚のAを入れると、一瞬で3枚のA消えてしまいます。
 この改案がどうこうの前に、そもそも原案に気になる点が多過ぎて、個人的に好きになれませんが、Aが消える瞬間の視覚的効果の高さは素晴らしいので、私はその部分だけ抽出した全く別の作品をレパートリーにしています(→コチラ)。
「コレクターの妄執」 「コレクター」の改案で、DBカードを1枚導入。正直言って、フェイクを利用してこの程度では演じる気になれません。例えば、ドン・イングランド考案の「Ultra Collectors」と比べれば・・・。
「Point of departure の混線」 2枚のジョーカーで挟んだ客のカードが消え、デックをスプレッドすると客のカードだけが表向きになって現れます(「YouTube」で見つけた動画を下に貼っておきます)。
 Alex Elmsley 考案の「Economy Class Departure」(「Point of departure」のノンフェイクバージョン)をわざわざデュプリケートを使って演じられるようにした・・・みたいな作品で、せっかくレギュラーだけで演じられるようにしたのにって感じもしますが、デュプリケートを使う事に目をつむれるなら悪くないでしょうか。


「オムニ・デックの伏線(アンダープロット)」 「アンビシャスカード」のオチでデックが透明なアクリルの塊になってしまいます。
 オチの前までは Dai Vernon が Houdini をひっかけたというDBカードを利用する「アンビシャスカード」が採用されていますが、トップの2枚しかカードが使われないため、最初からアクリルの塊の上に2,3枚のカードを載せて演じていたという事が容易に想像がついてしまい、大した効果は得られないと思います(そういう意味では「ティルト」も併せて演じるのは必須で、客のカードをデックの「中」に入れたと思わせる事ができたなら、オムニデックのオチは絶大な効果を発揮するはずです)。
 ただ、「アンビシャスカード」はオムニデックのオチに頼らずとも十分に客ウケする手順が組めるので、オムニデックは別の何かで利用した方が良いと思います。
「サンドイッチ効果の腐蝕度」 DFカードを1枚導入して、サンドイッチ現象を2回繰り返します。
 DFカードに敢えてサインさせるところが氏は気に入っているようですが、そこはあまり響かなかったでしょうか。手順自体は可もなく不可もなくという感じです。
「オイル・アンド・ウォーターの迷路(ラビリンス)」 アスカニオの手順に触発されて創ったという手順で、2エキストラバージョンの「Oil & Water」(3フェイズの手順で、最後は「Anti Oil & Water」)です。
 マニアを魅了してやまない「Oil & Water」ですが、私がレパートリーにしているのは普通の「Oil & Water」ではなく「Oil & Queens」の変形で、普通の「Oil & Water」の魅力を語れるほどの熱量は私にはありません。ただ、初期の「Oil & Water」を知るには良い材料になるのかなとは思います。